令和2年分の所得税については、例年と比べて、比較的多くの改正が行われています。それらの改正のうち、この記事では「所得金額調整控除」という新たな制度の創設に関して、対象者と計算方法をわかりやすくまとめています。
所得金額調整控除とは?
所得金額調整控除とは、給与所得控除の上限額の引き下げに伴って増税となる人に対し、介護や子育て世帯にはその増税の影響が及ばないようにするために設けられた制度です。また、給与以外に公的年金等の収入がある人に対しても、同様に税負担が増えないようにするためのものです。
所得金額調整控除は、大きく以下の2種類の控除に分かれます。
1 | 子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除 |
2 | 給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除 |
なお、上記1についてのみ、年末調整での適用を受けることが可能です。2の年金と給与の両方をもらっている人は年末調整で所得金額調整控除の適用を受けることはできませんので、確定申告を行う必要があります。
所得金額調整控除の適用はいつから?
この制度は、令和2年分以降の所得税の計算から適用されます。
所得金額調整控除の対象者と計算方法
それでは、具体的に所得金額調整控除の対象になる人と、対象となった場合の計算方法を見ていきます。
1.子ども・特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除
所得金額調整控除のひとつ目として、介護・子育て世帯に対する税負担への配慮が設けられています。
対象となる人は、給与所得控除の上限額の引き下げの影響を受ける、比較的所得が高めの人です。具体的には次の通りです。
対象者
所得金額調整控除の対象となるのは、「給与等の収入金額が850万円を超え、次のいずれかに該当する場合」です。
- 年齢23歳未満の扶養親族を有する人
- 特別障がい者に該当する人(本人)
- 特別障がい者である同一生計配偶者もしくは扶養親族を有する人
控除額
上記の要件に該当した場合、以下の金額が控除されます。
(給与等の収入金額(1,000万円を超える場合は1,000万円)-850万円)×10% |
計算式は上記の通りですが、具体例に、年収が1,000万円の給与所得者を例に、改正前と改正後における増税の影響と、所得金額調整控除の適用を受けた場合の税負担軽減の計算を見てみます。
改正前
改正前(令和元年分)の給与所得の金額は、次の通りです。
1,000万円-(1,000万円×10%+120万円)=780万円
改正後(所得金額調整控除の適用なし)
次に、改正後(令和2年分)において、仮に所得金額調整控除の適用を受けられないと仮定した場合の給与所得の金額を確認しておきます。
1,000万円-195万円=805万円
独身や子供のいない世帯では、基礎控除が10万円引き上げられたことを考慮しても、増税になってしまいます。
改正後(所得金額調整控除の適用あり)
最後に、改正後(令和2年分)において、所得金額調整控除の適用を受けられる場合の給与所得の金額は次のよう計算されます。
(1,000万円-195万円)-((1,000万円-850万円)×10%)=790万円
この計算結果だけを見ると、給与所得は改正前が780万円だったのに対し改正後が790万円と、10万円増加してしまっていますが、改正によって基礎控除が10万円引き上げられますので、給与所得控除と基礎控除を合わせて見れば、所得金額調整控除の適用により、税負担が増えていないことになります。
これが、所得金額調整控除の効果です。
扶養控除と所得金額調整控除の違い
いわゆる共働きの世帯で扶養している子どもがいる場合、扶養控除の要件に当てはまれば控除を受けることができますが、その際には夫婦のどちらかでしか、扶養控除の適用を受けることができないことになっています。
一方、所得金額調整控除にはそのような規定はありません。つまり、共働きの世帯で扶養親族に該当する23歳未満の子どもがいるようなケースでは、夫婦の双方で所得金額調整控除の適用を受けることができます。制度として扶養控除と似ているため、夫婦のどちらかしか所得金額調整控除を受けられないのではないかと勘違いして適用を忘れることのないよう確認しておきましょう。
年末調整での注意点
年末調整において、所得金額調整控除の適用を受けたい場合、「所得金額調整控除申告書」という書類を、その年最後の給料日前までに会社へ提出する必要があります。
この書類を提出しないと、別の書類に扶養親族がいることを記載して会社に伝えていたとしても、所得金額調整控除の適用を受けることができなくなってしまいます。
また、年末調整は、10月から11月くらいに社内手続きを開始する会社も多くあります。そのため、この時点ではまだその年最後の給料をもらっていないため、今年の年収が850万円を超えるかどうかわからない場合があります。特に残業の量によって給料が大きく変動する場合や年末に賞与の支給がある場合などは年収がいくらになるか正確に予測できないこともあるでしょう。
その場合であっても、23歳未満の子どもがいる等の要件に該当する場合は、とりあえず「所得金額調整控除申告書」を会社に提出しておいて問題ありません。仮に提出したものの年収が850万円を超えなかった場合、所得金額調整控除を適用しないで所得税の計算が行われるだけで、特に不都合はありません。
2.給与所得と年金所得の双方を有する者に対する所得金額調整控除
給与所得と年金所得の2つの所得がある人も、所得金額調整控除の対象となっています。
このような人については、給与所得控除の額と公的年金等控除の額の双方が引き下げられる改正が行われています。どちらも10万円ずつ、控除額が下がる改正となっています。控除額が下がるということは、基本的に増税になることを意味します。
そのため、このままだと負担が増えることになるため、負担増への一定の配慮のために、所得金額調整控除が設けられた形です。
対象者
対象は、「給与所得および公的年金等に係る雑所得の金額があり、給与所得および公的年金等に係る雑所得の金額の合計額が10万円を超える人」です。
控除額
給与所得(10万円を限度)および公的年金等に係る雑所得(10万円を限度)の金額の合計額から10万円を控除した残額が、給与所得の金額から控除されます。