収益認識基準による工事進行基準の改正【従来との違いを解説】

企業会計基準委員会が平成30年3月30日に公表した「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」により、建設業における重要論点である工事進行基準の会計処理が改正されることとなりました。

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収益認識基準による工事進行基準の改正

工事

従来の日本の会計基準における工事進行基準と、新しい収益認識基準における処理の違いは、以下の通りです。

従来の会計基準における工事進行基準

従来の日本の会計基準では、工事契約に関し、工事の進捗部分について成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用し、成果の確実性が認められない場合には工事完成基準を適用することが定められていました。

また、工期が非常に短い工事については工事完成基準を適用することが容認されていました。

新しい収益認識基準における処理

新しい収益認識基準においては、財又はサービスに対する支配が顧客に一定の期間にわたって移転することになるという要件を満たす場合には、一定の期間にわたり収益を認識する取り扱いが定められています。

この収益認識基準が適用されることにより、従来の「工事契約に関する会計基準(企業会計基準第 15 号)」及び「工事契約に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第 18 号)」は廃止されることになります。

収益認識基準と従来の工事進行基準との違い

上記の通り、従来の日本基準においては、成果の確実性が認められるか認められないかが工事進行基準を採用するか工事完成基準を採用するかの判断のポイントとなっていました。

「成果の確実性が認められる」とは、①工事収益総額、②工事原価総額、③決算日における工事進捗度、の3つの要素について、信頼性をもった見積りができる状態のことを指します。

新しい収益認識基準においては従来の考え方が変更されています。

収益認識基準においては、次の3つの要件のいずれかに該当する場合には一定の期間にわたり履行義務を充足することになるため、一定の期間にわたって収益を認識することが必要となります。

つまり、次の3要件が工事進行基準を採用するかどうかの判断のポイントとなります。

  1. 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
  2. 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること
  3. 次の要件のいずれも満たすこと
    ・企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
    ・企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること
工事進行基準の適用を検討するにあたり、従来の基準では「成果の確実性が認められるかどうか」によって判断するのに対し、新しい収益認識基準では「一定の期間にわたり履行義務を充足するかどうか」によって判断することになる、という違いがあります。

ただし、契約工期がごく短い場合には一定の期間にわたって収益を認識するのではなく、完全に履行義務を充足したタイミングで収益を認識することも代替的な取扱いとして認められています(いわゆる従来の工事完成基準による処理と同じ)。

これは、工期がごく短いものは、通常、少額な工事であり財務諸表に与える金額的な影響が小さいと想定されるため、完全に履行義務を充足した時点(工事が完成し引き渡しが完了した時点)で収益を認識しても大きな支障は生じない、との考えに基づくものです。

原価回収基準の創設

一定の期間にわたり充足される履行義務については、履行義務の充足に係る進捗度を見積り、この進捗度に基づいて収益を一定の期間にわたって認識していくことになります。

この会計処理は、従来の基準が定めていた工事進行基準の会計処理と同じ処理となります。

ただし、進捗度を合理的に見積もることができない場合も現実には想定されます。

その場合には別の方法が定められており、それが従来の日本の会計基準では採用されていない「原価回収基準」と呼ばれる方法です。

原価回収基準とは

原価回収基準とは、履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合に、その回収できると見込まれる費用の金額をもって収益を認識する方法です。

従来の日本の会計基準では、進捗度を合理的に見積もれない場合は成果の確実性が認められないことになるため、工事進行基準を適用することができず、工事完成基準により会計処理を行います。

そのため、完成した時に一時に収益が計上されることとなり、工事の施工途中においては収益が一切計上されません。

これに対し、新しい収益認識基準では、進捗度を合理的に見積もれない場合であっても、工事が進捗しているという実態を表現するために、施工途中でも収益を計上する方法が定められたことになります。

契約の初期段階における代替的な取扱い

収益認識基準においては、進捗度を合理的に見積もることができなくても原価回収基準によって収益を認識するケースがあります。

ただし、契約の初期の段階において履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができない場合には、収益を認識することなく、工事が進んで進捗度を合理的に見積もることができるようになった時から収益を認識するという代替的な取扱いも定められています。

実際、建設業においては、実行予算の作成に時間を要する場合もあり、詳細な実行予算が確定する前に施工を開始してしまうケースも見受けられます。

このようなケースで進捗度を合理的に見積もれない状況であれば、この代替的な取り扱いを適用し、実行予算が作成されるまでの工期の初期の間は収益を認識しないこともできる、とされています。

進捗度の合理的な見積りの可否の見直し

履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができるかどうかについては、決算日ごとに毎期見直すことが求められています。

見直しの結果、当初は進捗度を合理的に見積もることができていたものの、その後状況が変化して進捗度を合理的に見積もることができなくなったケースでは、それまでの会計処理を変更し、履行義務を充足する際に発生する費用を回収することができると見込まれる場合には原価回収基準を採用して会計処理を行うことになります。

まとめ

「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」により、建設業において様々な影響が生じます。

従来の会計基準との違いに着目し、早期に慎重な検討を行うことが重要です。

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