退職給付債務の計算に用いる割引率
退職給付は、従業員の退職に伴って支払われる退職金という性質上、通常は、実際の支出までに相当の期間があります。
そのため、退職給付債務の計算においては、時間価値を考慮するため、割引率を設定して割引計算を行うことが必要になります。
退職給付債務の計算に用いる割引率は、期末における安全性の高い債券の利回りを基礎として設定することとされています。
ここで、安全性の高い債券とは、国債・政府機関債・優良社債の3種類が該当します。
安全性の高い債券を用いる理由は、退職給付は企業が将来存続して従業員に退職金を支払うためのものであるため、例えば企業が倒産するリスクなどの信用リスクは排除し、単純に時間価値を反映するように計算を行う必要があるためです。
国債・政府機関債・優良社債は、信用リスクが極めて低いことから、この3種類から選択することとなっています。
なお、この3種類のうち、どの種類を用いるかについて、いったん採用した種類はみだりに変更することはできず、原則として毎期継続して使用することが必要とされています。
割引率の見直しの要否
会計基準において、割引率は「重要な変動が生じていない場合には見直さないことができる」と定められています。
したがって、反対に、重要な変動が生じている場合には割引率を見直さなければなりません。
重要な変動が生じている場合とは、前期末に使用した割引率により計算した場合の退職給付債務と比較して、期末の割引率により計算した退職給付債務の額が10%以上変動すると推定される場合です。
このような場合には、退職給付債務の計算に重要な影響を及ぼすと考えられることから、期末の割引率を用いて計算し直した額を退職給付債務として算定しなければなりません。
10%以上変動するかどうかについて、実務的には、公益社団法人 日本年金数理人会・公益社団法人 日本アクチュアリー会が公表している数理実務ガイダンス(PDF)に含まれる付録1「重要な影響を及ぼすものとして再計算しなければならないとされている場合に該当しない期末の割引率の目安」に基づいて検討することになります。
この資料では、前期末の割引率が0.0%から4.0%まで0.1%刻みで示されており、退職給付債務のデュレーションも7年から25年の範囲で1年単位で示されています。
前期末の割引率・デュレーションの状況に応じて、見直しを必要としない割引率の範囲を把握することができます。