偶発債務の定義と注記事例の解説

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偶発債務の定義

偶発債務とは、今のところは実際の債務にはなっていないものの、将来においてある事象が発生した場合に会社にとって損失をもたらす可能性のある債務のことを言います。

具体的には、手形の遡求義務債務の保証訴訟事件に関する損害賠償義務などが挙げられます。

手形遡求義務とは、手形の割引や裏書譲渡を行った際に、仮に手形上の主たる債務者が期日に手形金額を弁済することができなかった時に、その主たる債務者に代わって手形金額の弁済を行わなければならない義務のことです。

偶発債務は今はまだ損失として確実に発生するとまでは言えない状態であるものの、その性質上、仮に現実の債務となった場合には会社にとって大きな損失をもたらすこともあります。

そのため、決算書を利用する投資家等に対してこのような重大な影響を及ぼすおそれのある事象を抱えているということを知らせるために、偶発債務に関する処理方法が定められています。

偶発債務の処理方法

偶発債務を識別した場合、次のいずれかの方法により処理します。

1.引当金

偶発債務の処理方法としては、引当金の設定要件を満たす場合には適切な名称を付した引当金を設定します

引当金の設定要件を満たす場合とは、将来現実の債務となって損失をもたらす可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合です。

2.注記

一方、将来損失となることがある程度予想されるものの、発生の可能性が高いとまでは言えない場合や、損失の金額を合理的に見積もることができない場合は、引当金の設定要件を満たさないことになるため引当金は計上できません。

このような場合には、財務諸表に注記を行うことにより決算書を利用する投資家等へ注意喚起を行うことになります。

なお、偶発債務のうち重要性のないものについては注記を行う必要はありません。

偶発債務は基本的に損失を伴いますが、これと反対に利益をもたらす偶発事象(偶発利益)という概念もあります。偶発利益は会計処理の大原則である「保守主義の原則」に反しますので、一般的に会計処理は行いません。

偶発債務の注記事例

法律の本

有価証券報告書の「注記事項」の箇所に記載されている偶発債務として、手形の遡求義務や債務の保証以外では次のような事例があります。

1.株式会社神戸製鋼所

出典:第165期(自 平成29年4月1日 至 平成30年3月31日)有価証券報告書

当社グループにおいて、公的規格又は顧客仕様を満たさない製品等(不適合製品)につき、検査結果の改ざん又はねつ造等を行なうことにより、これらを満たすものとしてお客様に出荷又は提供する行為(以下「本件不適切行為」といいます。)が判明しました。

当社グループは、不適合製品の出荷先のお客様とともに、不適合製品を使用したお客様の製品に対する品質影響(安全性含む)についての技術的検証を進めており、大部分のお客様には、安全性確認を完了いただいております。引き続き検証中のものもありますが、これまでのところ、即時使用を停止する、又は、直ちに製品を回収することが必要であると判明した事案は確認されておりません。

また、当社グループは、本件不適切行為に関し日本の捜査機関による捜査を受けているほか、不適合製品を米国のお客様に対して販売した疑いがあるとして、平成29年10月より、米国司法省の調査を受けております。

加えて、当社グループは、(1)カナダにおいて、当社グループの製造した自動車向け金属製品や、それらを使用して製造された自動車に関する、経済的損失の賠償等を求めるクラスアクション、(2)米国において、当社ADR証券に関する、米国証券法違反(コンプライアンス体制等の虚偽表示)に基づくクラスアクション、(3)米国において、当社の製造した金属製品を使用して製造された自動車に関する、転売価値の下落等の経済的損失の賠償等を求めるクラスアクション、の3つの民事訴訟を提起されており、今後も同様の訴訟を提起される可能性があります。

日本の捜査機関の捜査、米国司法省の調査及び上述の民事訴訟は、いずれも初期段階であり、現時点で最終的な罰金額・損害賠償額等を合理的に見積ることは困難ですが、金銭的負担が生じる可能性があります。また、お客様などで発生する製品の交換、検査に係る補償等への対応費用が新たに発生する可能性もあります。

これらにより、当社の連結業績に影響を及ぼす可能性がありますが、現時点でその影響額を合理的に見積ることが困難なものについては、連結財務諸表には反映しておりません。

2.シチズン時計株式会社

出典:第133期(自 平成29年4月1日 至 平成30年3月31日)有価証券報告書

当社の連結子会社である、シチズン電子株式会社(以下「シチズン電子」)について、取引先企業との取決めにおいて、供給している製品の製造拠点を変更した場合には、取引先企業にその変更を申請することになっていたにもかかわらず、一部の取引先企業に対して、その変更申請を行わなかったことに起因し、それ以後、取引先企業と取り決めた従前の製造拠点で製造されたことを示すロット番号を印字したラベルを製品に貼付するなどして出荷を続ける不適切行為が判明しております。

当社としては、本件をコンプライアンス違反事象であると重く受け止め、平成29年11月10日に第三者委員会を設置し、徹底的な調査による事実解明と原因分析などを委ねました。

平成30年2月9日には、第三者委員会の調査報告書を受領し、本件不適切行為は、遅くとも平成22年4月から平成29年6月までの約7年2か月間にわたり続いていたことが認定されております。

これに加え、第三者委員会の調査により新たに判明した主な事象として、シチズン電子の照明用LED部品に関して、主に北米の取引先企業向けに、シチズン電子内に設置された認定試験所において発行する、寿命予測(光束の経年劣化)に関する試験結果を記載したレポートの一部が書き換えられ、提出されていたという不適正行為が行われていたことが記載されています。

本件の今後の進捗次第では、損失の発生等により当社の連結業績に影響を及ぼす可能性がありますが、現時点ではその影響額を合理的に見積もることが困難なため、連結財務諸表には反映しておりません。

3.オリンパス株式会社

出典:第150期(自 2017年4月1日 至 2018年3月31日)有価証券報告書

当社の不適切な財務報告の結果、当社に対して当社株主等が訴訟を提起しています。当該訴訟の今後の進行状況等によっては、引当金を認識すること等により当社の連結業績に影響が生じる可能性がありますが、現時点ではその影響額を合理的に見積ることはできません。

4.愛知製鋼株式会社

出典:第112期(自 平成27年4月1日 至 平成28年3月31日)有価証券報告書

平成28年1月8日、当社知多工場で爆発事故が発生しました。

今後、この事故に起因する取引先に対する補償または費用の負担が発生する可能性があります。

なお、発生の可能性が高く、金額の合理的な見積もりが可能なものは当連結会計年度末において災害損失引当金を計上しております。

5.株式会社タダノ

出典:第70期(自 平成29年4月1日 至 平成30年3月31日)有価証券報告書

厳格化する米国のディーゼルエンジン排ガス規制に製造業者が柔軟に対応できるよう設けられた規制の段階的緩和措置に対して、当社グループとしてその要請の一部を満たしていない可能性があることが判明し、米国子会社2社が米国環境保護庁へその旨を自己申告いたしました。現在も米国法律事務所による調査が進行中であり、現時点で調査の終了時期は見通せておりません。

当事実が今後の当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす可能性がありますが、現時点ではその影響額を合理的に見積もることは困難であるため、連結財務諸表には反映しておりません。

6.日本航空電子工業株式会社

出典:第84期(自 平成25年4月1日 至 平成26年3月31日)有価証券報告書

当社は、平成25年10月に、航機事業部において作業時間を過大計上している案件があることが判明したことから、防衛省より、平成25年10月4日から平成26年7月3日までの9ヶ月間、指名停止の措置をとる旨の通知を受けております。

今後、契約条項に従って違約金等の支払の発生が予想されますが、現在、防衛省の調査に協力しているところであり、過大請求に係る金額が見積れず、支払時期も未定のため、当社連結上の財政状態及び経営成績に及ぼす影響は、現段階で不明であることから、引当金の計上は行っておりません。

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