企業の退職金制度の運用方法として「退職給付信託」という方法があります。
この記事では、退職給付信託の意義と会計処理、退職給付信託を利用することのメリット・デメリットを解説します。
退職給付信託とは
退職給付信託とは、会社が保有する有価証券(株式など)を退職金の支給や年金掛金の支払いに備えて信託契約により拠出することを言います。
企業から信託を受けた信託銀行は、その企業の社員が退職する際等に備えて有価証券等を管理・運用します。
退職給付会計の導入当時は、積立不足の解消を目的に持合株式を信託に拠出するケースが多く見られました。
退職給付信託の会計処理
退職給付信託を設定した際の会計処理は次のとおりです。
【例】簿価100万円の有価証券を、時価130万円で退職給付信託に拠出したケース
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
退職給付引当金 | 1,300,000 | 有価証券 | 1,000,000 |
退職給付信託設定益 | 300,000 |
退職給付信託のメリット
退職給付信託のメリットを確認します。
バランスシートの改善効果がある
退職給付信託を設定すると、上記の仕訳の通り、会計上は資産の減少と負債の減少の会計処理を行います。
したがって、貸借対照表が圧縮(スリム化)されることにより、負債比率が改善されます。
積立不足に機動的に対応できる
通常の企業年金制度では、1年間に拠出できる金額に制約があります。
一方で、退職給付信託にはそのような制約がありませんので、積立不足になった場合にすぐにその状態を解消することができます。
退職金の支給原資が担保される
退職給付信託は、制度上、拠出された資産を会社の資産とは分離して管理することになります。
そのため、万が一会社が倒産した場合でもその資産は保全されることになります。
この点は、従業員や投資家にとっては安心材料となります。
議決権を保有したまま株式を拠出できる
退職給付信託に拠出した資産は、所有権が会社から信託銀行に移ることになります。
ただし、信託を行った資産の中でも株式の議決権についてはその議決権をどのように行使するかに関して信託先の銀行に対して指図を行うことができます。
そのため、実質的には会社が議決権を保有したまま信託を行ったことと同じ効果を得ることができます。
退職給付信託のデメリット
次に、退職給付信託のデメリットを確認します。
税制面で不利になる
退職給付信託は、会計上は年金資産として取り扱うことになりますが、通常の年金資産とは異なり、税制面で非課税措置を受けることができず、退職給付信託から生じた運用収益は課税対象となります。
信託資産の使途が限定される
退職給付信託は、退職金の支払い等に備えて行うものであるため、会社の都合で解約を行うことが制限されます。
つまり、事業運営のための資金が必要になった場合であっても、いつでも退職給付信託から資金を引き出す、ということはできません。
信託資産の評価損益の影響を受ける
退職給付信託に拠出した有価証券に時価の変動による評価損益が生じた場合、退職給付費用を通じて会社の損益に計上されます。
そのため、多額の退職給付信託を行っている会社にとっては、特に経済環境が悪化した場合に大きなマイナスの影響を与えることがあるため注意が必要です。